インタビューInterview

芦川瑞季Mizuki Ashikawa

版画家

プロフィール

1994

静岡県生まれ

2019-

武蔵野美術大学大学院博士後期課程在籍中

2021

個展「新世代の視点2021ギャラリーなつか」
第8回山本鼎版画大賞展(大賞)

2022

第3回京都版画トリエンナーレ(ニッシャ印刷財団賞)

芦川さんは当初、油絵学科油絵専攻に入学されたとお聞きしましたが、なぜ版画専攻に専攻変更したのですか?

もともと平面的なイメージやイラストレーションが好きだったのですが、自分自身に根本的に大雑把なところがあり、予備校の講師からは油絵専攻を勧められていました。また当時地元の公立高校の普通科に通っており、自力で受験情報を集めていたため、リサーチ不足で版画専攻について知らないまま、絵が描ける学校であればどこでもいいと思い、そのまま油絵専攻に進学しました。 しかし受験を乗り切っても、根本的には絵の具のねっとりとした物質感を扱うことに馴染みがなく、またそれによる表現の世界を探究していくことに限界を感じていました。 学部3年次の造形科目がより専門的になるタイミングで、卒業制作展等で学生の作品を見て興味を持っていた、版画専攻に専攻変更しました。 版の持つ間接的な性質は、自分の根底にあった「絵を描く」感覚に近いものがあるなと直感で選択しました。

様々な版画技法がある中でなぜ、リトグラフを用いて制作するのですか?

リトグラフはペインターが絵画作品と並行して、刷り師と連携して作品を作ることも多く、版に描く感覚が絵画と近いのです。 凸版や凹版は、版を削ったり腐食したりするので余白に手が入ったり、逆に削って明るくなったところにインクを詰めるので完成図を想像しづらく感じます。 しかし、リトグラフは描いたところにそのままインクがのります。もともと絵を描きたくて美大に行きたかったので、この加算方式の感覚がしっくりきました。他にも孔版などもありますが、描いたものがそのまま版になり反転する加算方式の感覚がよりリアルに感じられる技法として、リトグラフで制作しています。

現在、ムサビの大学院博士後期課程で研究されているテーマを教えてください。

過去の版画作品をたどり、それぞれが持つ平面的な特性について研究しています。自作をそこから派生した表現とみなし、主体が画面上や展示空間を行き来するような構成の版画作品や展示空間を制作しています。

今後の制作活動についてお聞かせください。

2022年5月まで開催されていた京都版画トリエンナーレ以降は、コロナ禍で延期になっていた短期間の国内のアーティスト・イン・レジデンスに参加する予定です。 少しずつ活動の幅を広げていきたく、さまざまな土地で取材をしたり、滞在制作にも挑戦してみたいなと思います。

「版画専攻」は「グラフィックアーツ専攻」という名前に代わりますが、新しく入学する学生の皆さんにメッセージをお願いします。

グラフィックアーツは、版の平面性や間接性、希薄さについても、それより広い範囲についてもあてはまるいい言葉だなと思います。入学して技法を勉強してみると分かるかもしれませんが、版画技法は物質的にも矛盾している部分や、制作している時の思考や感覚が分裂する瞬間がいくつもあります。ですが、そこにオリジナリティがあり、それがこのメディアの面白さなのではないでしょうか。グラフィックアーツ専攻に変わることで、この性質を生かしてさまざまな領域を横断した作品が生まれたらいいなと思います。制作をしながら自分なりに解釈を重ねていくことを忘れずに頑張ってください。