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2016年度 訪問教授Ingrid Ledent氏(アントワープ王立美術学校/ベルギー)による課外講座「プリントアートの未来形」

近年の版画作品は、美術の表現媒体の一つとして版を捉え、作者の制作プロセスの中に技法自体の特性が取り込まれている表現が特徴のようです。それは、なぜ版を使って表現するのか、あるいは、版でなければこのような表現にならない、といった必然性が要求されているのです。いわば、絵画の複製としての目的は限りなく喪失したと言えるでしょう。

そのような版画の世界的潮流の中心に在って、常に版表現の可能性を提示し続けている作家として、ベルギー・アントワープ王立美術学校教授のIngrid Ledent先生を招聘しました。

課外講座のタイトルでもある「プリントアートの未来形」を学生それぞれが模索して欲しいという思いのもと、たくさんのプログラムを実施し、6日間という短い期間ですが、たいへん内容の濃い授業が展開されました。

Ingrid Ledent先生は、ゼネフェルダー以来の伝統的石版画技術を駆使したリトグラフ作品やPCによるインクジェットプリント、プロジェクションなどを駆使して多様な作品を発表しています。優れたアーティストでありながら、世界でも屈指のリトグラフ技法の研究者でもあります。今回、その先生の制作の在り方を、敢えてコンセプトの部分と技術の部分の二つに区分けし、訪問教授のプログラムを組み立てていただきました。

版による表現の独創性を追求してきた先生の豊かな経験によって、それぞれの学生の課題に対して適切に指導していただき、学生たちが表現者として独自の未来を切り開く姿が思い描けるような、希望に満ちた情熱的な授業が展開されました。

 

油絵学科版画専攻教授 遠藤竜太

実施日時:

2016年9月23日(金)- 29日(木)

場所:

武蔵野美術大学6号館102、2号館大学院studio 他

参加者:

池田良二 油絵学科版画研究室 教授
遠藤竜太 油絵学科版画研究室 教授
高浜利也 油絵学科版画研究室 教授
赤本啓護 油絵学科版画研究室 助手
越智也美 油絵学科版画研究室 助手
佐藤拓巳 油絵学科版画研究室 教務補助員
中村真理 油絵学科版画研究室 教務補助員

本学大学院生 他

スケジュール:

23日(金)

展示指導、学部版画工房・大学院studioにて指導
歓迎レセプション

24日(土)

ワークショップ

26日(月)

ワークショップ、学部版画工房・大学院studioにて指導
課外講座「プリントアートの未来形」

27日(火)

ワークショップ、学部版画工房・大学院studioにて指導

28日(水)

ワークショップ、学生によるパーティー

29日(木)

学部版画工房・大学院studioにて指導

課外講座「プリントアートの未来形」:

リトグラフは、1798年にJohann Alois Senefelderによって発明された印刷技法です。現在は、日本のほぼすべての大学では、石の代替にアルミ版を使っています。本学もアルミ版を使って授業をしますが、国内では最も多くの石を保有しており、Senefelderが発明した当時の伝統的印刷技術による制作研究も充実しています。

リトグラフの原理としては、の反発作用を利用するのですが、その製版方法は複雑で、基本的には石灰石の上に脂肪性の画材で描画し、アラビアゴム硝酸を少量混合した溶液を上から塗ることで化学反応を起こして版を作るというものです。特に製版方法においては、アラビアゴムと硝酸の溶液の使い方などに、作家の数だけやり方があるというくらい多くの方法が存在します。しかし、大別するとアメリカ式とヨーロッパ式とになるでしょうか。

今回、訪問教授でお招きしたIngrid Ledent先生は、伝統的なヨーロッパ方式のみならず、アメリカのTamarind・リトグラフ工房の手法も研究しています。そのような様々な方法の中から、今回は日本ではほとんど知られていないチェコの方法と呼ばれる製版方法を紹介してくれました。

特徴としては、アラビアゴムと硝酸の溶液を塗布した後のセカンドエッチと呼ばれる行程の際に、ゴムに含む酸の濃度を微妙にコントロールしながら長時間にわたり(最低1時間)絵を描くように版面を撫でて作用させるところにあります。親水性を強める行程を繰り返し、印刷に耐える安定的な版を作ることに主眼が置かれています。

ワークショップでは、このチェコの方法と呼ばれる製版方法に加えて、アスファルトの技法、ネガポジ反転、リト・エングレーヴィングという三種類の特殊な技法を研修しました。特に興味深かったのはリト・エングレーヴィングで、古いヨーロッパの本のリトグラフによる挿絵に細い線や文字が入っている事がありますが、それにこの技法が使われていたようです。平版による銅版のようなシャープな線は、まず時間をかけて石の表面を硝子化させた後、そこをエングレーヴィングして製版してある事を知りました。

今回のワークショップでは、約220年間の平版印刷技術の発展とともに発明されてきた様々な技法を学び、その時代とともに積み重ねられてきた豊かな版画の文化に触れることを目標としました。一朝一夕にはできない手技を通して版を作り上げて行く楽しさと難しさを感じ、ここで得た知識を何らかの形で各自の作品表現に活かしてくれる事を期待しています。

 

近年の版画作品は、美術の表現媒体の一つとして版を捉え、作者の制作プロセスの中に技法自体の特性が取り込まれている表現が特徴のようです。それは、なぜ版を使って表現するのか、あるいは、版でなければこのような表現にならない、といった必然性が要求されているのです。いわば、絵画の複製としての目的は限りなく喪失したと言えるでしょう。

そのような版画の世界的潮流の中心に在って、常に版表現の可能性を提示し続けている作家として、ベルギー・アントワープ王立美術学校教授のIngrid Ledent先生を招聘しました。

課外講座のタイトルでもある「プリントアートの未来形」を学生それぞれが模索して欲しいという思いのもと、たくさんのプログラムを実施し、6日間という短い期間ですが、たいへん内容の濃い授業が展開されました。

Ingrid Ledent先生は、Senefelder以来の伝統的石版画技術を駆使したリトグラフ作品やPCによるインクジェットプリント、プロジェクションなどを駆使して多様な作品を発表しています。優れたアーティストでありながら、世界でも屈指のリトグラフ技法の研究者でもあります。今回、その先生の制作の在り方を、敢えてコンセプトの部分と技術の部分の二つに区分けし、訪問教授のプログラムを組み立てていただきました。

版による表現の独創性を追求してきた先生の豊かな経験によって、それぞれの学生の課題に対して適切に指導していただき、学生たちが表現者として独自の未来を切り開く姿が思い描けるような、希望に満ちた情熱的な授業が展開されました。

 

課外講座では「プリントアートの未来形」というタイトルでIngrid氏の自作を語っていただくと共に、これからの版表現の可能性を提示する講義を開催した。

武蔵野美術大学2号館1階FAL 展示風景、Ingrid氏の作品だけでなく大学院生と共に制作した版画集作品を展示した。